本記事は第6回 統計・機械学習若手シンポジウム 日本の博士課程〜若手シンポジウム’21 カウントダウンカレンダー〜のために執筆しました。
こんにちは。東京大学大学院情報理工学系創造情報学専攻中山英樹研究室博士課程3年の幡谷龍一郎です。深層学習による画像認識を研究しています。今年の9月には修了したい気持ちでいます。
私はまだ博士課程を修了していないので、「博士課程はこうするといいよ」というような記事は書けません。そこで、本記事は、主に情報系の大学院、特に博士課程、への進学も検討している方を想定読者として、研究助成の申請書の書き方について少し述べていきます。研究助成は国などが何らかの課題の解決するような研究プロジェクトに資金提供をするもので、申請者は申請書を書いて応募することになります。指導教員や研究室の先輩が科研費などを申請し、研究費を獲得されている、という方も多いかと思います。
最近では大学院生の場合は研究助成が採択されると、研究費に加えて生活できるくらいの給料が出るものが増えてきました(JSPSのDC1/2やJST次世代、ACT-Xなど)。最近では民間にも似たような取り組みが見られ(ティアフォー学生研究員やサイバーエージェント協同研究員など1)、複数の助成が得られると最大で月額50万円くらいまで支給されるようです。私の場合、研究助成によって大学の卓越RAとして採用されており、1月現在で毎月30万円程度支給されています。
研究提案の採択によって得られる研究費は、制限はあるものの研究提案者である大学院生の裁量によって使うことができます。そのため、研究室の方針に左右されずに、自分の必要な設備や書籍などを購入して研究を進めていくことができます。例えば私の場合は研究費で計算に必要な新しいGPUや、今後の研究に備えて関連分野の書籍を購入したりしています。また、(昨今はなかなか難しいですが)学会参加や研究訪問のために国内外の旅行することも可能になります。
このように研究助成が得られると嬉しいことが多いのですが、とはいえ残念ながら誰でも貰えるわけではありません。私も学振特別研究員や学内の研究助成も含めてM2の頃から12回応募をしてきましたが、最初の2年間は7回連続で不採択でした。その後、東大インクルーシブ工学連携研究機構の萌芽研究RA、MSRAからの研究助成、JSPS若手研究者海外挑戦プログラム、JST ACT-Xと1年間に4回採択されたので、以下ではその中で得られた知見について述べていきます。
まず前提として大切なのは、申請できるものには申請をすることです。論文同じく、とにかく書き慣れて提案したいことを書けるようになることが大切です。加えて、人が申請書の査読をしているため、その採択結果にはどうしてもある程度の運要素が含まれてしまいます。そのため、たくさん申請してその影響を減らすことが重要になってきます。
特に初めのうちは実績がないので応募するだけ無駄ではないか、と思いがちなのですが、学生を対象とした助成の場合はそこまで実績は重要な要素ではない、と思いましょう。申請書の執筆は面倒で殊に最初の頃は時間がかかりますが、研究提案書で書いた内容はある程度使い回せますし、研究の計画を立てることができるので、決して無駄ではないはずです。
また、しばしば指摘されることではありますが、設問をしっかり読んで答えることが簡単なようで実は難しい基本かもしれません。申請書特有の言い回しなどもあるので、指導教員や先輩の申請書を見せて貰ったり、参考書などを見てみると良いと思います。
その上で、最近の採択された提案書では「【分野の重要な問題】を【ここまで】【私が】解く」ということを意識して書きました。研究提案では解きたい課題の解決を提案して書いていくわけですが、解きたい問題が【分野の重要な問題】、つまり社会的な問題や分野の歴史から重要で挑戦的な問題であり、それに取り組むことを主張します。逆にどんなに面白いと思っている問題であっても、解けても御利益がないものだと思われてしまうといけないわけです。「科学者が書いたリアル志向の未来SF」のつもりで、実現したい未来を自分の分野に射影すると楽しく書くことができます。
研究助成には期間があり、研究費も限られているので、助成終了までに【ここまで】解く、ということを明確に記述することが重要です。これは解きたい問題の規模感の記述にも繋がっていて、絶対に解けるような小ささでも、絶対に解けないような大きさでも駄目なので按配が難しいです。問題の適用範囲が曖昧すぎると具体的な質問をされて答えられなくなりますし、逆に限定的だと拡張性に疑問がつきます。
【私が】解く、というのは当たり前ですが重要な部分です。つまり、仮に同じ研究提案を他の人がしたときに、なぜその人ではなく、「私」を採択する必要があるのか、ということです。資金提供する側の気持ちになると、今は難しい【分野の重要な問題】を【ここまで】解決してくれる力量のありそうな人を選びたいのではないでしょうか。これは過去の研究実績であったり、新しいアイデアでアピールすることになります。ただ、多くの大学院生の場合は十分な実績もないですし、また短い申請書の中で専門分野が離れているかもしれない査読者にも新しいアイデアを持っていることをアピールすることは難しいです。そこで提案の萌芽的な問題の解決を国際学会のワークショップや国内学会などで発表することで、「私なら解ける」ことを示せるのではないかと思います。また、採択後の雑談によると、学会活動(イベントの開催、査読、ボランティア)や教育活動、講演などを積極的に行うことで、他とは違う感じが出せる場合もあるようです。
以上、研究提案の申請書の書き方を簡単に書いてみました。内容は十分とは言えないと思いますが、少しでも皆さんのお役に立てば幸いです。論文がこれまでの研究を書く作業だとすれば、研究提案はこれから始まる研究を書く仕事なので、慣れれば楽しめるのではないかと思います。ご質問などありましたら、 hataya @ nlab.ci.i.u-tokyo.ac.jp にお願いします。
ここでは給与が支給される研究助成について触れましたが、立石科学技術振興財団の研究助成のように研究費のみを支援する民間の取り組みもあります。また、MSRAのフェローシップのようなプログラムでは研究費(賞金)と企業研究者のメンターシップが得られます。フェローシップの場合、賞金は寄付金となるので通常の研究費よりも自由度が高く使うことができます。 ↩︎